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興味がない人は無理して読まなくていいんだぜ。

映画評|『パラサイト』の元ネタも救ったマーティン・スコセッシの映画保存プロジェクト|The World Cinema Project

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ボクは本を読むのが好きで、音楽を聴くのが好きで、映画を観るのが好きなインドア系の人間です。だから、このブログも本と音楽と映画が中心です。ブログで紹介するのは日本でまだ紹介されていない作品が中心ですが、日本の本も読みますし、邦画も観ます。

日本の映画は昔の映画を観ることが多いかもしれません。最近の日本映画も嫌いではないですが、観る機会は古い映画の方が多いです。古い日本映画を見る場合、映画館で観るか、 BDやDVDなどメディアで家で観るかになります。古い映画を上映する名画座まで出かけるのは億劫なので(インドア系人間なんです)、ほとんど家で観ることになります。しかし、残念ながら日本の古い映画はあまりBDやDVDなどメディアになっていません。品質の高いレストアがされている作品は黒澤明と小津安二郎くらいです。最近は成瀬巳喜男が加わりはじめたくらいですかね。それも多くは米国クライテリオンなど日本国外で修復されたものが多いです。日本のB級ジャンル映画の品質の高いレストアも、日本国外より英国アローフィルムズの方が多いと思います。

日本でも巨匠と言われる溝口健二や川島雄三の作品ですら限られた有名作しかレストアされません。これも日本ではなくクライテリオンからです。では、日本が特別にレストレーション後進国なのか?そうとも言えません。アメリカとイギリスが飛び抜けて映像文化の保全に力を入れているのです。多くの国に名作映画はありますが、なかなかレストアが進んでいないのが現状です。

今回紹介するのはマーティン・スコセッシ(『タクシードライバー』や最近だと『アイリッシュマン』などで有名な映画監督)が中心となった立ち上げたThe Film Foundationのプロジェクトの一つであるWorld Cinema Projectの作品集です。

The Film Foundationはマーティン・スコセッシが中心となって1990年に立ち上げられた基金です。ウッディー・アレン、ロバート・アルトマン、フランシス・コッポラ、クリント・イーストウッド、スタンリー・キューブリック、ジョージ・ルーカスにスティーブン・スピルバーグなどが最初の理事として名を連ねました。そうそうたる顔ぶれです。

The Film Foundationを理解するには基金の仕組みを理解する必要があります。レストレーションにはお金がかかります。お金がすごく大事なんです。基金は1)資金を集めて、2)その資金を投資等の運用して利益を稼ぎ、3)稼いだ利益で事業を行う仕組みです。多くの基金が寄付を求めますよね?例えば、ボクがある基金に寄付をしたとします。ボクが寄付した寄付金はすぐには使われません。多くの人の寄付金と合わせて口座に入ります。基金はこの口座に入っているお金を投資運用して利益を出します。その利益から特定目的に使われます。アメリカの大学も資金の多くを基金の運用益に依存しています。

ノーベル賞を支えているノーベル財団もそうですよね。ノーベル賞の財源はアルフレッド・ノーベルの遺産です。ビル&メリンダ・ゲイツ財団もビル・ゲイツの資産が財源です。アルフレッド・ノーベルやビル・ゲイツの資産がいくら莫大でも、無限にはありません。有限です。いつかは無くなります。なくなるたびに寄付を求めたらキリがないですよね。なくならないように資産を元手に運用するのが基金であり財団です。基金も財団も英語では同じ"Foundation"です。ちなみにWikipediaも同じ仕組みでウィキメディア財団が運営しているはずなのですが、ちょいちょい資金が足りなくなって寄付を求めてきますね。基金や財団の財政的な健全性はCharity Navigatorで知ることができます。

1950年以前の映像作品の半分以上はすでに失われたそうです。映像作品の保全もお金がかかります。The Film Foundationは映像文化の歴史の保全と保持を目的とした基金です。すでに850以上の映像作品をのレストアに協力してきました。

The Film Foundationはいくつかのプロジェクトを進めています。その一つがWorld Cinema Projectです。World Cinema Projectでは世界各国の40の映画作品がレストアされました。その一部がクライテリオンから発売されています。その中に収録されている『下女』(하녀)は先日アカデミー作品賞を獲得した映画『パラサイト』にも大きな影響を与えたことでも有名な作品です。

日本の映画でまだBDになっていない作品がまだまだたくさんあります。日本の「映画の父」と言われる牧野省三作品とか300編近くあったのが今では数編しか残ってないらしいです。田中絹代が成瀬巳喜男に師事して作った最初の監督作品『恋文』も高品質なレストア映像で観たい。日本でもこういう基金が立ち上がらないかなあ。いっそのこと自分で立ち上げちゃうか?