この記事のポイント
- プロセスではなくエクスペリエンスをデザインする
- フロントステージの主役は複数設定でき、それぞれジャーニーが異なる
- 組織変革にサービスデザインが果たせる役割は大きい
原文:"Using Service Design to shape the future of Talent Acquisition" by Shira Ben-Cohen
この記事はShira Ben-Cohenさんによる Practical Service Designへのゲスト寄稿です。Shiraさんはイスラエルに住んでいて、インテルのGlobal Talent AcquisitionグループにてGlobal Talent & Hiringのパートナーエクスペリエンスに取り組んでいます。Shiraさんは組織文化の変革と組織内の人の意識変革にサービスデザインが大きな役割を果たすことができると考えています。
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前回の記事でサービスデザインを自分の組織に取り入れる活動とこの素晴らしいテクニックを人材獲得に活かす取り組むを紹介しました。そして夢見る次のアクションについて書くことでその記事を終えました。
それはビジネスプロセスパフォーマンスのチームと一緒にリクルーティングのバックステージをデザインすることでサービスデザインを一歩進めること。そして採用候補者だけでなくリクルーターや採用部門長もクライアントとしてみること。そして、その夢はかなったのです!
採用は三位一体
私たちは採用する候補者のエクスペリエンスが大事だと知っています。採用のプロは質の高い人材プールを保ち、人材マーケットに組織がいかに採用エクスペリエンスを向上するためにプロセスやツールの改善に努めています。
解説
日本では馴染みが薄いかもしれませんが、海外では採用される側と採用する側は対等です。選ぶ自由は採用される側にもあるので、採用する側は「雇ってやる」という態度を見せてはいけません。そのために採用される側のエクスペリエンスが重要視されます。採用に至らなかった場合でも「ああ、結果はともあれ、この企業と話ができてよかった」と感じてもらうことが重要です。
しかし、何か忘れていないでしょうか?
採用部門の部門長やリクルーターは採用エクスペリエンスに重要な役割を果たしています。彼らこそ採用プロセスの推進力であり、候補者とともに三位一体を構成します。
人材獲得の組織を活性化するためには採用パートナーも顧客としてみることが大事です。採用アプローチをデザインする上で彼らのエクスペリエンスも中心に置く必要があります。
これで主要な顧客がわかりましたので、ニーズの調査に移ることができます。そのやり方を見てみましょう。
プロセスではなくサービスのデザイン
新しいポジションを作る、人材を募集する、候補者と接触する、といった採用パートナーとのインタラクションは全てサービスと言えます。
人材のドメインにおいて、私たちは単にプロダクト(ポジション)を売っているわけではなく、サービスを管理しています。
多くの場合、デザインプロセスはルールや構造、ポリシーからはじまります。今回はその方向を逆さまにしてみました。向上させたいインタラクション(サービス)を取り上げ、「このサービスにおいてどのようなエクスペリエンスを提供したいのか?」と問いかけました。
このアプローチは非常に役に立ちました。
- プロセスではなくエクスペリエンスをデザインする
- 既存のサービスの改善ではなく、将来の理想的なサービスをデザインする
ステージとしての人材獲得
そしてサービスデザイン手法の素晴らしさが現れる部分でもあります。
ワークショップの初日、サービスブループリントに取り掛かる前に私は「ステージ」の考え方を同僚たちに紹介しました。
人材獲得の世界を一つのステージとすると、三つの見方をすることができます。フロントステージ、バックステージと舞台裏です。
1. フロントステージは実際の活動が起きる場所です。採用候補者のエクスペリエンスの全て。行動をする場所であり、関係する人たちと関わり合いを持つ場所。採用部門長とリクルーターを人材獲得サービスの顧客と設定するならば、彼らもそれぞれのジャーニーを体験するフロントステージの役者となります。
例:
- 全体の採用候補者ジャーニー:受け取るeメール、電話、面接のすべて
- 採用部門長とリクルーターとのやり取り
- リクルーターがプロセスでのやり取りのエクスペリエンス
三人の異なる役者、それぞれが違うジャーニーを体験します。それぞれが採用プロセスにおいて自分のフロントステージに立ちます。
2. バックステージはフロントステージを支えるサポートプロセスです。
例:
- 採用候補者が私たちのコミュニティーに参加するための登録フォームを作るための人材管理のCRMシステム
- リクルーターと採用部門長が採用プロセスを管理するための応募のトラッキングシステム
- インフラの担当者やアシスタントなど採用活動を支えてくれる他の役者たち
3. 舞台裏はフロントステージとバックステージが機能するために会社が持つべき規則、規定や予算といった無形のもの全てです。
例:
- 考慮すべきあなたの組織の採用予算と人材計画
- 組織のダイバーシティ―目標とそれが意思決定プロセスに与える影響
- 障害者採用規定、各国の採用規則、採用募集期間など
新しいサービスをイメージしなおすために有意義な議論をするマッピング作業を行う前に「ステージ」の考え方を理解することは重要です。ビジネスプロセスだけでなくそこに立つ役者のエクスペリエンスにフォーカスする人間中心デザインの本質と言えます。
未来の状況のデザインと既存の状況デザイン
未来のマッピングはそのユーザーにとって理想の状況に基づいています。あるべき姿のサービス構造です。
わたしたちは採用パートナーの現在のエクスペリエンスではなく、将来のエクスペリエンスの再定義をするために各国の様々な部門からその分野に明るい人たちに集まってもらいました。
メンバーはそれぞれ異なる専門分野、リージョンや役割を代表し、採用プロセスにおいての役割と知見を得られるよう選出しました。そう、三位一体。
私たちは三つのトラックを同時進行できるようにグループ分けをしました。それぞれのトラックは採用プロセスにおいて異なる注力分野を担当して新しいエクスペリエンスを描きます。
PART 1- サービスエクスペリエンスを描く
ワークショップ初日はサービスデザインのボディーともいえるサービスブループリントを使って未来のサービスのあるべき姿を描きます。
前回は現在のサービスブループリントセッションでは現在のサービスをベースとして改善のアイデアを反復させました。しかし、今回はゼロベースで理想のサービスを描くことにしました。
私たちの基礎となる原則(プリンシパル)は継ぎ目のないシームレスなプロセス、意味のある関係、主なステークホルダーとの真のパートナーシップです。この原則が最後まで私たちの活動を導いてくれることになります。
私たちは新しいサービスを作りはじめました。一歩ずつ。「最初から最後まで」まずはフロントステージに注力して。
そして、「最初から最後まで」作り上げたサービスのバックステージと舞台裏のサービスコンポーネントを未来のサービスブループリントをチェックリストとして使いながら「表面から中心まで」みていきます。
例
たとえば新しいポジションをオープンするためのプロセスを作るとします。一歩ずつ。左から右へ。そしてブループリントの色分けを使ってマッピングしていきます。
最初のステップが終わりましたか?それでは次のステップに行きましょう。
デジタルとアナログ
付箋紙はデザイナーが好むツールで、とても楽しいですが、今回のセッションではデジタルのツール活用も模索しました。
もちろん、付箋紙を使うことでチームは自らの手を使い、立ち上がり、クリエイティブになります。私も付箋紙は大好きです。一日のワークショップのあとに壁一面に貼られて付箋紙は美しく一日の最後にふさわしいとも言えます。でも、
現在はクリエイティブにコラボレーションができるデジタルでにできるツールが沢山あります。そしてリアルタイムに文書化することができます。そして、これが重要なのですが、その日の作業状態を保存できるので、好きな時にそこからはじめることができます。その日にいなくても、別の地域にいたとしても。
今回はMuralを使ってみました。とてもよかったです。今後のセッションでも使い続けるでしょう。
PART 2 — サービスエクスペリエンスを定義する
ワークショップの二日目は分かれていたグループが再び一つに集まり、それぞれが作ったブループリントの共有をしました。
それぞれのチームは担当したシナリオのデザインとフローを詳しく説明します。
次のステップはアイデアを優先づけして実行可能な戦力的な計画に落とし込むことです。そして将来の人材獲得ロードマップを作成して組織に持ち帰ります。
チームがエクスペリエンスの考え方を素早く吸収してサービスデザインの言葉でグループの作業を共有する姿はとても素晴らしいです。
デザイン・ドリブンな組織変革
はい、組織をデザイン・ドリブンに変革するには時間がかかります。しかし、小さな一歩、企業のマインドが顧客中心の会社への進めていきます。
私は私のマネージャーたちや会社がサービスデザインのような新しい考え方を取り入れることを誇りに思います。Global Talent Acquisition組織における変革が実行中ですが、ここにサービスデザインを活用できる機会が与えられたことは本当に幸運でした。
このプロジェクトから学んだこと
- 世界はステージでその要素は全て重要です。変化を起こす時にエンドユーザーだけでなく、それを実行する役者全てを考える必要があります。それに取り掛かるチームが「ステージ」のコンセプトを理解できるよう背景を設定しましょう。
- 望むエクスペリエンスからはじめ、プロセスを後から定義する。これまでやっていたことは脇において、ビジネスのフローにおいてどのようにしたいのかをデザインしましょう。まず顧客を考える。ニーズを把握してそこからはじめる。使わなければいけないシステムやルールに気を使いすぎない。あなたのモデルに組み込むことができるし、これまで考えたこともないタッチポイントが生まれるかもしれない。
- 将来の理想を想像しましょう。現状のマッピングも素晴らしいです。そこは間違えないで下さい。しかし、現状のマッピングでは不十分な状況があります。実際に存在しないワークフローをデザインするのは非常に難しいですが、固有の改善を推進するには必要なことです。
- デジタルに移行しましょう。当たり前に聞こえるでしょうが、ワークショップの環境でのエンゲージメントのために付箋紙から離れられない人たちもいます。デジタルツールを使いましょう。
- 大きく夢見て、小さくはじめましょう。サービスデザインによる採用プロセスの再定義は1日でなし得るものではありません。サービスデザインを使って組織文化に影響を与えたいと考えるならば、小さなシナリオで小さく興味を持っている人たちと一緒にはじめましょう。その小さな一歩が先へとつながっていきます。
解説
顧客満足度を高めるために人間中心のデザインを取り入れる。特にサービスにおいてはサービスデザインは日本でも注目を集めてきています。
サービスには外向きのサービス(顧客やパートナー)と内向きのサービス(従業員やパートタイム)があります。例えば人事やITというのは従業員が働きやすい環境を作るサービスです。サービスデザインが活用されるのは外向きのサービスが多く、内向きのサービスに使われることはあまりありません。これは予算のつき方が原因なのだと思います。社員満足度のために外部のデザイン会社にお金を払う予算がない。
でも、内側で人間中心のサービスができないのに、外側に対して人間中心のサービスができるのか?という疑問はありますよね。インテルのこの事例はそういう意味ではとてもいい事例です。ボク自身もシンガポールで新入社員のオンボーディングのデザインをしたことがあります。とある政府系機関の人事の方々とデザイン室と一緒にこのプロジェクトをやったのですが、人事の方というのは社員のことを知っているようで知らない。どちらかというと人事プロセスの専門家なんですね。だから人事(じんじ)は人事(ひとごと)と言われたりする。
顧客中心の企業文化にしたいのであれば、まずは内側からはじめてみてはいかがでしょうか?
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