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ルールは何のため?大切なものを守るため

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「ルールに縛られたくない」と「歌詞」で検索するとたくさん結果が返ってきます。歌の世界ではルールは定番の悪者です。盗んだバイクで走り出したい気分なんです。それでも、社会生活においてルールに守られているのも確かなわけで、誰かが実際に盗んだバイクで走り出したら被害届を出せば警察は犯人を探してくれます

これまでは「郷に入っては郷に従え」と同調圧力の強かった日本ですが、多様性に寛容的になってきました。杉田水脈さんの「LGBTは生産性がない」論文から端を発した新潮45の休刊もLGBTという多様性を認める日本人の変化を表しているのでしょう。そして、東京都が決めたLGBTの差別を禁止する条例も、またルールなのです。

ルールは何かを縛るだけでなく、社会に参加する人たちがなるべく不満を感じないようにするために必要なんですね。

ルールの三階層

ルールは特定の集団(国、自治体、学校、企業)に所属する人たちにとった大切なものを守るための決まりごとです。「何が大切なのか」が決まっていないとルールはおかしなことになってしまいます。

ルールは大きく三つに分けることができます。一つは憲法や法律、会社の就業規則や学校の校則といった公的なルールです。そこに所属する人たちは守らないといけないルールで、守らない人には罰則があります。

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二つ目は明示的ルールです。法律で決まってはいないものの、多くの人たちが暮らしやすいように行政やサービス提供者が明示的に示すルールです。マタニティーマーク優先席はその代表例ですね。法律ではありませんが、社会に参加する人たちとして推奨される行動を提示しています。入り口に書いてあったり、シンボルマークでわかるようになっています。

温泉や公共浴場で刺青やタトゥーを禁止しているのも明示的なルールの代表例ですね。法律で決まっているわけではないのですが、サービス提供者が全体の利益を考えてきめて、提示しているルールです。エスカレーター上の歩行も多くの場合は明示的に禁止されているのですが、これは暗黙のルールで無視されるケースがほとんどです。

三つ目が暗黙のルールです。電車内での飲食や先のエスカレーター上は歩行する人のために片側は空けておくなど、どこにも書かれていないが何となく多くの人が従っているルールです。

暗黙のルールのいいところと悪いところ

日本は明示的なルールが少なく、暗黙のルールが少ない文化だと言われています。文化の話なので、どっちがいいという話ではありません。

欧米ではハッキリとモノを言い、それが明示的に誰でも見えるようになっている文化(ローコンテクスト文化)ですが、日本ではハッキリとモノを言わずともなんとなく通じる文化(ハイコンテクスト文化)だそうです。文脈(=コンテクスト)を読むことを求められます。つまり、空気を読めということです。

暗黙のルールのいいところ

柔軟な運用

「なんでも規制ばかりだと息苦しい」と感じる人は多いかと思います。規制ばかりだとなんでも杓子定規になって柔軟的な対応ができない。その時々の状況に応じて柔軟に対応できるのは暗黙のルールのいいところです。

全てルールを決められるわけではない

全てにおいてルールを決めれることはできません。明示的にルールを決める場合、それが守られる必要がありますし、人間が覚えられることには限界があります。また、ルールは生きていて、常にアップデートされなければいけません。新しいルールが浸透するのにも時間がかかりますが、アップデートされたルールが浸透するにも時間もかかりますし、昔のルールに慣れた人からの抵抗もあります。

サービス提供者の負荷軽減

サービス提供者にとっても都合がいい面があります。事業者自身はルールを決めず、その場にいる人たちの間で決めてもらうことができます。日本の場合、多くの電車では持ち物の規制は明治的ルールがあります。危険物を持ち込んではいけないし、動物や自転車の持ち込みにもルールがあります。

しかし、電車内での行動に関しては行動規範のようなものはありません。つまり、電車内での行動に関して明示的なルールはありません。もちろん、その上位にある法律で規制されていることはあります。電車内の喫煙は法律で禁止されています。しかし、電車内の飲食は実は禁止されていません。なんとなく「電車の中で飲食してはいけない」と多くの人が思っていて、暗黙のルールになっているだけです。

何かを決めるのは大変ですが、暗黙のルールに頼れば決めずに済みます。

暗黙のルールの悪いところ

ストレスを強いる

明文化されていないということは、個人によって違った考え方やルールがあるということでもあります。ある人にとっては常識でも、ある人によっては非常識だということになります。

タレントの小籔千豊さんが新幹線でリクライニングシートをマックスで倒したら怒られた話をTwitterで呟いて話題になり、賛否両論の議論になりました。怒られる方もストレスでしょうが、怒る方もストレスでしょう。明示的なルールがあればこのようなストレスを避けることができます。

公共性が低い

鉄道会社が暗黙のルールに頼るように、自治体の多くも運用は地元住民の暗黙のルールに頼るところが多いです。

奈良県の自治会が移住者を村八分にしたことで弁護士会が「是正勧告」を認定したニュースが話題になりました。自治会というのは任意団体であって公共団体ではありません。そういう意味において、所属する人たちが好きなルールで好きなことをやればいいのです。その自治会は「昔から地域に住んでいて神社の氏子である世帯」でなければ参加できません。それはそれで構わないでしょう。手芸の会とかコスプレの会みたいなものです。氏子の会があってもいい。

しかし、市町村からの情報の告知の場とされたり、公共のイベントの母体となるのであれば公共性が求められます。公共性とは多様性の受け入れでもあります。「昔から地域に住んでいて神社の氏子である世帯」だけに限定されることは許されないということで是正勧告なのでしょう。

昔なら暗黙のルールとして通用したことが、通用しなくなってきた代表的な例です。

大切なことには明示的ルールが必要

暗黙のルールの方が柔軟に運用できるというのは実は正しくないケースが多いです。

全てのことにルールを決めることはできませんし、決める必要もありません。しかし、多くの人と共有すべき/共有できる大切なことについては明示的ルールが必要となります。例えば、女性は安心して電車に乗りたいし、女性が心配せずに電車に乗ることができることは社会にとって大切なことです。そのために鉄道会社は女性専用車両という明示的なルールを決めました。法律のような公的ルールで決められていること以外、手荷物しか規定してこなかった日本の鉄道会社がこのような独自の明示的ルールを決めるのは異例のことでした。

同じ目標に同じ行動規範で取り組む組織は大きな成果を出すことが多いです。多くの人数で同じ目標と同じ行動規範を共有するためには明示的ルールが必要になります。

アジャイル

アジャイルは開発手法としてだけでなく、様々なビジネスの考え方に大きな影響を与えています。全てを計画してその通りに開発する手法をウォーターフォールに対して、アジャイルは変化に柔軟に対応することができます。

変化に柔軟に対応するために、その理念であるアジャイルソフトウェア開発宣言があり、行動規範であるアジャイルソフトウェアの12の原則という明示的なルールがあります。非常にシンプルなルールですが、シンプルだからこそ多くの開発者に共有され、実施されています。スクラムやスタンディングミーティングといった手法より、理念と行動規範がまず大切です。この理念がわからないと、「そもそも、なんでこんなことやってるの?」ということになってしまいます。

シンプルなルールを作るには、その組織がどのような価値観を大切にしているのかを決めなければいけません。アジャイルの場合は以下を価値観として大切にしていることが明確に示されています。アジャイルが暗黙のルールだったら世の中に広がらなかったでしょう。

プロセスやツールよりも個人と対話を、

包括的なドキュメントよりも動くソフトウェアを、

契約交渉よりも顧客との協調を、

計画に従うことよりも変化への対応を、

デザイン

イギリス政府はユーザー中心の先進的な取り組みで、公共サービスの利便性を大きく高めています。公共サービスは多くの人が使うので、より多くの人にとって使いやすいサービスでなければいけません。

イギリス政府がかなり早い時期に取り組んだのがデザイン原則の策定です。イギリス政府が公開しているGOV.UKの歴史に詳しく書いてあるので、興味があればご覧ください(日本語翻訳版はこちら)。Amazon Alexaなどボイスインターフェースが話題ですが、新しいインターフェースを取り入れる際もこのデザイン原則に照らし合わせて検討を進めています。

何が大切なのかをきちんと決めているから、新しい取り組みも決断を早く行うことができます。共有されているだけでなく、きちんと使われているのです。