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デザイナーのための『UXストラテジーガイド』

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原文:"THIS UX STRATEGY GUIDE HELPS DESIGNERS MAKE BETTER DECISIONS" by Alex Souza

 デザイナー(特に経験の浅いデザイナー)は企業戦略を見落としがちです。デザイナーが戦略立案に関わる機会が少ないことが原因なのではないかと考えています。または、企業はデザイナーが魔法のように問題を解決してくれると期待しているといったボタンのかけ違いが原因かもしれません。

 デザイナーが企業のゴール、新製品立ち上げの期待、新機能の追加を理解していないのは、ユーザーを理解していないのと同じです。知識の欠落は問題解決を難しくします。本当に。

「デザイナーは企業戦略を見落としてはいけない」f:id:kazuya_nakamura:20180210143112p:plain
“Designers shouldn’t overlook corporate strategy.”

 Jeff GothelfのリーンUXキャンバスやJim KalbachのUXストラテジーブループリントなど素晴らしいツールがありますが、デザイナーや講師としてデザイナーと関わる機会が多い私から見るとこれらのツールは新しいデザイナーが習得して実戦で使うには難しい。このプロジェクトが実現する価値があるかどうか判断するのが単純に彼らにとって難しいのです。

 UXストラテジーブループリントはハイレベルの戦略を理解するためには素晴らしいツールです。しかし、そこから日々の仕事まで掘り下げていくことはできません。リーンUXキャンバスは仮説を設定して次のステップに進むための強力なツールです。しかし、経験が浅いデザイナーがそれを続けるべきかどうかを判断することは判断するのには足りません。

 この問題を解決するためにUXストラテジーガイドを作りました。

github.com

UXストラテジーガイド

 このUXストラテジーガイドはデザイナーがリーンUXキャンバスとUXストラテジーブループリントの両方を使いつつ、最終的な決定ができる情報を追加しています。

 このガイドは考えているプロダクトに関わる問題、オーディエンス、アイデア、仮説、リスク分析と判断基準を考える手助けとなるようになっています。

 5カテゴリーに分かれた12ステップで構成されています。最終決定をする上で最後のステップを完成させるには数回のイタレーションが必要となります。

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課題は何?

 最初のカテゴリー(ライトブルーのステップ1から5)では課題の理解、何を解決することを期待されているのか、どのような問題を乗り越えるのか、既存のソリューションとの違い、成功の数値的な目安を設定します。

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 集める情報が多いほど、ソリューションのアイデアや想定するユーザーとメリットを考えリスクを減らすことができます。

 ほとんどの情報はプロダクトマネージャーと埋めることができるでしょう。小さな規模の会社であれば会社のオーナーと埋めることができるかもしれません。

 このガイドの他のフェーズでも同様ですが、全ての質問に答えて棚卸しが終わってから次のステップに進みましょう。信じられないかもしれませんが、多くのプロジェクトはステップ2とステップ3が不十分なために失敗します。

「先に問題を明確にし、次にソリューションを考える」f:id:kazuya_nakamura:20180210143112p:plain
“First identify the problem, then work on the solution.”

 このカテゴリーでは存在するであろう課題について書いていることを忘れないでください。既存のプロダクトでよくある間違いはソリューションが直面している課題について説明してしまうことです。ここでの目的は課題を明確にすることで、ソリューションの発見はその次になります。

誰のため?何のため?

 二つ目のカテゴリー(ライトグリーンのステップ6と7)ではそのプロダクトを使うであろう実際のユーザーとユーザーメリットを理解します。

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 これは「ミニ・ペルソナ」のようなものです。

 UXリサーチを実施するのにいいタイミングです。可能であれば潜在的なユーザーと話をしてみましょう。 リーン・サーベイ・キャンバスは調査の準備するのにとてもよいツールです。

アイデアに名前をつける

 ステップ8(ライトイエロー)はその前のステップで集めた情報をもとに機能に関するアイデアを記録しておくため場所です。いわゆる「完璧なアイデア」はユーザーやビジネスにフィットしないことが多いです。

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 例えば主なユーザーが発展途上国にいるとして、電話のアプリケーションを作ろうとしているとします。その場合はiPhoneよりもAndroidのプラットフォームのほうがいいでしょう。

何が重要なのかを把握する

 ステップ9から11(ライトオレンジ)はJeff GothelfのリーンUXにあたる部分となります。

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 ここで機能がユーザーと企業にとってどのように有益なのか仮説をたてます。さらに最も深刻なリスクとその可能性について検討します。

 それぞれリスクが少ない仮説がデザインと開発チームのバックログに入ります。リスクが高い仮説は破棄されるか将来のイタレーションのためにガイドに残します。

メインステップ

 デザイナーとしてピクセルを操作して画面との関係を考えることは大好きです。12全てのステップに答えて全てが「イエス」であればプロトタイプを作りはじめることができます。

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 一つ以上「ノー」がある場合は意思決定をするには情報が足りていないことになります。そのまま続けてもやり直しのリスクが非常に高くなります。結局のところ、イタレーションを繰り返してわからない部分をなくしたほうが、やり直したり破棄するような失敗プロジェクトに関わるよりいいのです。

まとめ

 UXストラテジーは学習、忍耐と献身を必要とするテーマです。様々なデザイン分野をカバーし、プロダクトマネージメントやマーケティングといった企業のデザイン以外の分野とも緊密に連携する必要があります。このような知識を理解して役に立てることはデザインに大きな価値を生み出します。

 この『UXストラテジーガイド』はデザイナーが企業、オーディエンスやマーケットをよりよく理解するために作られています。必要があればいつでも使ってみてください。

訳者からの解説

 フォーマット訳者より:実際に試しに埋めてみましたが、ある程度慣れとセンスは必要だと感じました。翻訳上は、「UX Strategy」「Lean Startup」のナレッジをある程度前提としているので、Assumption - 前提とHypothesis -仮説は各々どう定義するのか、そもそも何を指して言っているのか…ということにそれぞれの文脈の影響で少し揺らぎがあったりします。なので、そのまま日本語訳するとちょっとわかりづらい、ということを中村さんともディスカッションして、もともとのフォーマットには無い解説などが付記されています。

 それと、なるべく厳しい目線で使わないと、マッチポンプ的に意外とイケそうな感じにも書けてしまうのは他の戦略フォーマットと同様かと思います。とはいえ、最後に「全部ほんとに調査したか?」「本当にこのアイデアで行けそうか?」という問いのところはすべてクリアしないと先に進めないので、無意識的な甘さは排除しやすいかもしれません。とりあえず全体像を俯瞰しながら進む戻るを検討しアタマを整理するのには良いと思いますので、試しにつかってみてください。

赤羽太郎

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ゴールを追いかけると幸せになれない三つの理由

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原文:"Forget About Setting Goals. Focus on This Instead." by James Clear

 私たちは人生で達成したいことがあります。いい体型になりたい、起業で成功したい、いい家庭を築きたい、ベストセラーを書きた、チャンピオンになりたい、などなど。

 そして、最初にやることは具体的で実行可能なゴールを設定すること。少なくとも、それが私のこれまでのやり方でした。学校の教室でもゴールを設定して、ジムに通ってどれくらい減量したいのか決め、自分のビジネスで獲得する顧客を決め。

 私が気がついたのは、実行して前に進むにはもっといいやり方があるということです。

 それはゴールとシステムの違いです。説明しましょう。

ゴールとシステムの違い

 ゴールとシステムの違いはなんでしょうか?

  • もしあなたがコーチなら、あなたのゴールはチームを優勝に導くこと。あなたのシステムはチームの毎日の練習。
  • もしあなたが作家なら、あなたのゴールは本を書くこと。あなたのシステムは毎週の執筆スケジュール。
  • もしあなたがランナーであれば、ゴールはマラソンを走ること。あなたのシステムはその月のトレーニングスケジュール。
  • もしあなたが起業家なら、あなたのゴールは100億ドルのビジネスを生み出すこと。あなたのシステムは営業とマーケティングのプロセス。

 そして質問です。

もしゴールを完璧に無視してシステムにフォーカスしたら結果を出せるでしょうか?

 例えば、あなたがバスケットボールのコーチだとして、大会で優勝するというゴールを全く無視して、チームの日々の練習にフォーカスをしたとする。結果を出せるでしょうか?

 私は結果を出せると思います。

 例えば、私が書いたブログ記事の文字数。過去12ヶ月で私は11万5000文字以上書きました(ここに全てあります)。一般的な書籍は5万から6万文字です。つまり、私は二冊の書籍と同程度の文量を書いたことになります。

 これは非常に驚くべきことです。私は書くことに関してゴールを設定していないのですから。私はベンチマークを使って私の進捗を測ったりしません。特定のブログ記事の文字数のゴールもありません。「今年は二冊本を書くぞ」などといったこともありません。

 私がフォーカスしたのは毎週月曜日と木曜日に一つのブログ記事を書くこと。そしてそのスケジュールを11ヶ月続けた結果が11万5000文字でした。私はシステムとタスクを実行するプロセスにフォーカスしました。そして私は同じ(またはそれ以上の)結果を楽しむことができました。

 それでは、ゴールではなくシステムにフォーカスするべき三つの理由を見ていきましょう。

1. ゴールは現在の幸福感を少なくする

 ゴールに向かっている時は基本的に「今は十分じゃない、でもゴールを達成すれば良くなる」という状態です。

 このマインドセットの問題は次のマイルストーンに達成するまで幸福感と成功を脇に置いておこうとすることです。「ゴールを達成したら幸せになる。ゴールを達成すれば成功したことになる」

解決方法:ゴールではなくプロセスにコミットする

 ゴールを決めると精神的な負担が増えます。もし自分が今年二冊の本を書くと決めたら?そのゴールを書くだけでプレッシャーを感じるでしょう。

 でも、私たちはいつもそうしています。減量するため、ビジネスで成功するため、ベストセラーを書くために不必要なストレスを抱えます。大きな人生を左右するゴールではなく、毎日のプロセスにフォーカスしてそれを続けることでモノゴトをシンプルにしてストレスを減らすことができます。

 パフォーマンスではなく作業にフォーカスすることで、現在を楽しみながら改善することができます。

2. ゴールは長期的なやる気を生み出さない

 ゴールを設定することで長期的にやる気を維持することができると考えるかもしれません。それは必ずしも正しくありません。

 ハーフマラソンのためのトレーニングを考えてみましょう。多くの人は数ヶ月ハードなトレーニングをするでしょう。しかし、大会が終わると練習をやめてしまう。ゴールはハーフマラソンを走りきることだから、それを達成したら練習を続ける「やる気」が持続できない。もし特定のゴールを達成するためにすごく努力したとして、それを達成した後には何が残りますか?

 これはゴールに向けてやったりやらなかったりという「ヨーヨー効果」に繋がります。このようなサイクルは長期的な習慣を作りにくくします。

解決方法:直前のゴールから解放される

 先週ジムでトレーニングをして最後から二番目のクリーン&ジャークのセットをやっていました。セットの最中にかすかなズキっとする痛みを感じました。すごく痛いわけでもないですし、怪我をしたわけでもない。ワークアウトの後半にある疲れのサインです。ちょっとの間、最後のセットをやるかどうか考えました。私はこれを生涯やることと決めていたので、今日はやめておくことにしました。

 ゴールを基本とした考え方ではワークアウトを完了してゴールを達成する気持ちになるでしょう。ゴールを設定して達成しなければ、失敗したと感じてしまうからです。

 しかし、システムを基本とした考え方では、続けることに問題はありません。特定の数字を達成することが目的ではありません。プロセスを続けてワークアウトし続けることが大事なのです。

 もちろん、ワークアウトをし続ければ、長期的にはより重い重量を持ち上げることができることを知っています。そして、それこそがシステムがゴールより価値が高いことなのです。ゴールは短期間の結果です。システムは長期間のプロセスです。そして最終的にはプロセスが常に勝つのです。

3. ゴールは管理できないことを管理できると錯覚させる

 失敗を予測することはできません。はい、ショックですよね。

 ゴールを設定するとそれを達成したくなります。自分たちがいつ、どこまで、何を達成するのか計画を立てます。どれくらい早く達成できるか予測します。どのような状況や環境がその先にあるかもわからないのに。

解決方法:フィードバックの仕組みを作る

 毎週金曜日、自分のビジネスにとって重要な数値をスプレッドシートに15分使って埋めます。例えば、一つの列にコンバージョン率(Webサイトの訪問者がニュースターの購読者になってくれる割合)を埋めます。この数字について考えることはありません。しかし、数字を入れ続けることで自分のビジネスの状況を理解するためのフィードバックの仕組みを作ることができます。コンバージョン率が落ちたらもっと品質の高いトラフィックをWebサイトに誘導する必要があるということです。

 フィードバックの仕組みはよいシステムを作るために重要です。現在の状況に関する情報をトラッキングでき、全てを予測する必要がなくなります。そして、そのプレッシャーからも解放されます。予測などせず、何かを調整しなければいけないサインを捉えることに注力しましょう。

システムに恋をする

 ゴールが無意味だと言っているわけではありません。ゴールは計画するのに適していて、システムは実際に実行するのに適しているというだけです。

 ゴールは方向性を与えてくれ短期的な動機も与えてくれます。しかし、よいシステムが常に勝ちます。システムを持つことが重要です。プロセスにコミットすることが結果に繋がります。

コインベースの創業者/CEOがAirbnbを辞めて起業した理由

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ソース:"20VC: MOST DOWNLOADED FOUNDER EPISODE OF 2017: BRIAN ARMSTRONG, FOUNDER & CEO @ COINBASE" by The Twenty Minute VC

ざっくり言うと

  • なんでAirbnbを辞めて起業した?
  • ビットコインとイーサリアムの違いは?
  • ICOについてどう思う?VCをディスラプトする?

 The Twenty Minute VCのポッドキャストでコインベースの創業者でCEOのBrian Armstrongのインタビューをやっていました。コインベースは世界で最も成功している仮想通貨関連スタートアップで、仮想通貨関連で初めてユニコーンとなりました。コインベースを起業する前はAirbnbでソフトウェアエンジニアとして働いていました。

なんでAirbnbを辞めて起業したんですか?

  • 2010年にAirbnbでソフトウェアエンジニアをやっている時。Hacker Newsを見ていた時にサトシ・ナカモトの論文が出てきた。クリスマスの夜にそれを読んだ。すごく興奮した。
  • 夜や週末を使ってミートアップをやったりコードを書いたりした。まだその時は起業しようなんて考えていなかった。周りの意見を聞いても自分に自信を持てなかった。
  • 実際に起業をしようと思ったのは2012年の夏にY Combinatorに参加してから。もらえるのは150K(1600万円くらい)だけど、このアイデアを信じてくれて投資してくれる人がいるという事実が自信につながった。お金をもらったことよりも自信をもらったことが重要だった。

参考:コインベースの初期のピッチデッキ

ビットコインとイーサリアムの違いは?

  • コインベース自体は特定の暗号化通貨に偏ることはない。これからも新しい暗号化通貨が出てくると思う。それを踏まえながらビットコインとイーサリアムの違いは三つ。
  1. スケーラビリティの違い(イーサリアムの方がスケールできる)。ビットコインは1秒で3から7の処理しかできないが、イーサリアムは1秒で17から25の処理ができるし、シャーディングなどでさらに処理速度を速める計画がある。ビットコインはコミュニティーが一枚岩でなく、スケーラビリティに関して意見が分かれている。
  2. 使われている言語の違い(イーサリアムの方が複雑なことができる)。ビットコインでは四則計算くらいしかできないが、イーサリアムは完全なプログラミング言語が備わっている。安全性の問題など色々と懸念されているが、開発者にとっては強力なのがイーサリアム。
  3. 関わっているチームの違い。ビットコインもイーサリアムもスマートな人たちの集まりだが、文化の違いがある。ビットコインは初期から参加している人たちが多い。理想的な動機を持っている。イーサリアムは技術集団で何ができるか可能性を探るのが好き。

ICOについてどう思う?

  • ICOはイーサリアムブロックチェーンの上にトークンを発行してそれを売ることで資金調達をすること。ICOはIPOを想起させるからあまり好きな言葉じゃない。トークンセールとも言われるけど、そっちの方が個人的にはしっくりくる
  • 長期的には色々な可能性があるが、短期的には試行錯誤が続くと思う。ガートナーのハイプ・サイクルをたどる。

ICOはベンチャーキャピタルをディスラプトする?

  • 現在のベンチャーキャピタルは資金調達と付加価値サービス(アドバイスやコネクション)がバンドルされている。両方価値があるものだけど、バンドルされる必要があるかは疑問はある。
  • 将来的に(クラウドファンディングやICOなどを使って)アーリーアダプターから資金調達をして、アドバイザーには株式を与えるなどすることは可能かもしれない。

スケーラビリティの問題についてどう思う?

  • スケーラビリティは技術的な問題より政治的な問題が大きい。これは分散化の特徴でもあるのだけれど、いまのビットコインの状況は分散化のために生産性が損なわれているように見える。
  • 技術的に見ればTwitterやYouTubeをスケールさせる方がブロックチェーンをスケールさせるよりずっと難しい。技術的にはクレジットカードのトランザクションに追いつくのは十分可能だと思うし、摩擦を減らすことでユーザービリティに関してはクレジットカードをはるかに超えることができる。

Airbnbで学んでコインベースで応用していることは?

  • Airbnbでは多くのことを学んだ。多くの経験をコインベースで活かしていて、その一つは人の採用。求める人材の基準を高く持つこと。企業が大切にしている価値を基準とすることなど。
  • ミッション・ドリブン(create an open financial system for the world)な企業というのもAirbnbとコインベースの共通点。それを全体会議や様々なコミュニケーションチャネルで伝えるようにしている。

soundcloud.com

中国で有償コンテンツを牽引する「知识经济」を徹底解説

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 中国のインターネット企業にはよく「人口红利」(人口ボーナス|レンコウホンリ)があると言われます。トラフィックを誘導する広告収入のビジネスモデルには人口の多い方が有利となります。一方で広告収入に頼らない有料コンテンツのビジネスモデルも中国で育ちはじめているのは注目に値します。その代表例が知识经济(知識経済|ジーシージンジ)です。

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人事(じんじ)を人事(ひとごと)にしないサービスデザイン|インテルでの取り組み

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この記事のポイント

  • プロセスではなくエクスペリエンスをデザインする
  • フロントステージの主役は複数設定でき、それぞれジャーニーが異なる
  • 組織変革にサービスデザインが果たせる役割は大きい

原文:"Using Service Design to shape the future of Talent Acquisition" by Shira Ben-Cohen

この記事はShira Ben-Cohenさんによる Practical Service Designへのゲスト寄稿です。Shiraさんはイスラエルに住んでいて、インテルのGlobal Talent AcquisitionグループにてGlobal Talent & Hiringのパートナーエクスペリエンスに取り組んでいます。Shiraさんは組織文化の変革と組織内の人の意識変革にサービスデザインが大きな役割を果たすことができると考えています。

■■■

 前回の記事でサービスデザインを自分の組織に取り入れる活動とこの素晴らしいテクニックを人材獲得に活かす取り組むを紹介しました。そして夢見る次のアクションについて書くことでその記事を終えました。

 それはビジネスプロセスパフォーマンスのチームと一緒にリクルーティングのバックステージをデザインすることでサービスデザインを一歩進めること。そして採用候補者だけでなくリクルーターや採用部門長もクライアントとしてみること。そして、その夢はかなったのです!

採用は三位一体

 私たちは採用する候補者のエクスペリエンスが大事だと知っています。採用のプロは質の高い人材プールを保ち、人材マーケットに組織がいかに採用エクスペリエンスを向上するためにプロセスやツールの改善に努めています。

解説

日本では馴染みが薄いかもしれませんが、海外では採用される側と採用する側は対等です。選ぶ自由は採用される側にもあるので、採用する側は「雇ってやる」という態度を見せてはいけません。そのために採用される側のエクスペリエンスが重要視されます。採用に至らなかった場合でも「ああ、結果はともあれ、この企業と話ができてよかった」と感じてもらうことが重要です。

 しかし、何か忘れていないでしょうか?

 採用部門の部門長やリクルーターは採用エクスペリエンスに重要な役割を果たしています。彼らこそ採用プロセスの推進力であり、候補者とともに三位一体を構成します。

 人材獲得の組織を活性化するためには採用パートナーも顧客としてみることが大事です。採用アプローチをデザインする上で彼らのエクスペリエンスも中心に置く必要があります。

 これで主要な顧客がわかりましたので、ニーズの調査に移ることができます。そのやり方を見てみましょう。

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採用部門長とリクルーターは候補者のエクスペリエンスのカギを握る

プロセスではなくサービスのデザイン

 新しいポジションを作る、人材を募集する、候補者と接触する、といった採用パートナーとのインタラクションは全てサービスと言えます。

 人材のドメインにおいて、私たちは単にプロダクト(ポジション)を売っているわけではなく、サービスを管理しています。

 多くの場合、デザインプロセスはルールや構造、ポリシーからはじまります。今回はその方向を逆さまにしてみました。向上させたいインタラクション(サービス)を取り上げ、「このサービスにおいてどのようなエクスペリエンスを提供したいのか?」と問いかけました。

このアプローチは非常に役に立ちました。

  1. プロセスではなくエクスペリエンスをデザインする
  2. 既存のサービスの改善ではなく、将来の理想的なサービスをデザインする

ステージとしての人材獲得

 そしてサービスデザイン手法の素晴らしさが現れる部分でもあります。

 ワークショップの初日、サービスブループリントに取り掛かる前に私は「ステージ」の考え方を同僚たちに紹介しました。

 人材獲得の世界を一つのステージとすると、三つの見方をすることができます。フロントステージ、バックステージと舞台裏です。

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引用:Service Design Stages, by Practical Service Design

1. フロントステージは実際の活動が起きる場所です。採用候補者のエクスペリエンスの全て。行動をする場所であり、関係する人たちと関わり合いを持つ場所。採用部門長とリクルーターを人材獲得サービスの顧客と設定するならば、彼らもそれぞれのジャーニーを体験するフロントステージの役者となります。

例:

  • 全体の採用候補者ジャーニー:受け取るeメール、電話、面接のすべて
  • 採用部門長とリクルーターとのやり取り
  • リクルーターがプロセスでのやり取りのエクスペリエンス

三人の異なる役者、それぞれが違うジャーニーを体験します。それぞれが採用プロセスにおいて自分のフロントステージに立ちます。

2. バックステージはフロントステージを支えるサポートプロセスです。

例:

  • 採用候補者が私たちのコミュニティーに参加するための登録フォームを作るための人材管理のCRMシステム
  • リクルーターと採用部門長が採用プロセスを管理するための応募のトラッキングシステム
  • インフラの担当者やアシスタントなど採用活動を支えてくれる他の役者たち

3. 舞台裏はフロントステージとバックステージが機能するために会社が持つべき規則、規定や予算といった無形のもの全てです。

例:

  • 考慮すべきあなたの組織の採用予算と人材計画
  • 組織のダイバーシティ―目標とそれが意思決定プロセスに与える影響
  • 障害者採用規定、各国の採用規則、採用募集期間など

新しいサービスをイメージしなおすために有意義な議論をするマッピング作業を行う前に「ステージ」の考え方を理解することは重要です。ビジネスプロセスだけでなくそこに立つ役者のエクスペリエンスにフォーカスする人間中心デザインの本質と言えます。

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引用:Service Design Stages, by Practical Service Design

未来の状況のデザインと既存の状況デザイン

 未来のマッピングはそのユーザーにとって理想の状況に基づいています。あるべき姿のサービス構造です。

 わたしたちは採用パートナーの現在のエクスペリエンスではなく、将来のエクスペリエンスの再定義をするために各国の様々な部門からその分野に明るい人たちに集まってもらいました。

 メンバーはそれぞれ異なる専門分野、リージョンや役割を代表し、採用プロセスにおいての役割と知見を得られるよう選出しました。そう、三位一体。

 私たちは三つのトラックを同時進行できるようにグループ分けをしました。それぞれのトラックは採用プロセスにおいて異なる注力分野を担当して新しいエクスペリエンスを描きます。

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将来の理想の採用プロセスと体験をデザインする

PART 1- サービスエクスペリエンスを描く

 ワークショップ初日はサービスデザインのボディーともいえるサービスブループリントを使って未来のサービスのあるべき姿を描きます。

 前回は現在のサービスブループリントセッションでは現在のサービスをベースとして改善のアイデアを反復させました。しかし、今回はゼロベースで理想のサービスを描くことにしました。

 私たちの基礎となる原則(プリンシパル)は継ぎ目のないシームレスなプロセス、意味のある関係、主なステークホルダーとの真のパートナーシップです。この原則が最後まで私たちの活動を導いてくれることになります。

 私たちは新しいサービスを作りはじめました。一歩ずつ。「最初から最後まで」まずはフロントステージに注力して。

 そして、「最初から最後まで」作り上げたサービスのバックステージと舞台裏のサービスコンポーネントを未来のサービスブループリントをチェックリストとして使いながら「表面から中心まで」みていきます。

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未来のサービスブループリント作成

 たとえば新しいポジションをオープンするためのプロセスを作るとします。一歩ずつ。左から右へ。そしてブループリントの色分けを使ってマッピングしていきます。

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フロントステージとバックステージ

 最初のステップが終わりましたか?それでは次のステップに行きましょう。

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ブループリントの色分け

デジタルとアナログ

 付箋紙はデザイナーが好むツールで、とても楽しいですが、今回のセッションではデジタルのツール活用も模索しました。

 もちろん、付箋紙を使うことでチームは自らの手を使い、立ち上がり、クリエイティブになります。私も付箋紙は大好きです。一日のワークショップのあとに壁一面に貼られて付箋紙は美しく一日の最後にふさわしいとも言えます。でも、

 現在はクリエイティブにコラボレーションができるデジタルでにできるツールが沢山あります。そしてリアルタイムに文書化することができます。そして、これが重要なのですが、その日の作業状態を保存できるので、好きな時にそこからはじめることができます。その日にいなくても、別の地域にいたとしても。

 今回はMuralを使ってみました。とてもよかったです。今後のセッションでも使い続けるでしょう。

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Our digital blueprint map on Mural-beautiful visualization

PART 2 — サービスエクスペリエンスを定義する

 ワークショップの二日目は分かれていたグループが再び一つに集まり、それぞれが作ったブループリントの共有をしました。

 それぞれのチームは担当したシナリオのデザインとフローを詳しく説明します。

 次のステップはアイデアを優先づけして実行可能な戦力的な計画に落とし込むことです。そして将来の人材獲得ロードマップを作成して組織に持ち帰ります。

 チームがエクスペリエンスの考え方を素早く吸収してサービスデザインの言葉でグループの作業を共有する姿はとても素晴らしいです。

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それぞれのチームは担当したシナリオのデザインとフローを詳しく説明

デザイン・ドリブンな組織変革

 はい、組織をデザイン・ドリブンに変革するには時間がかかります。しかし、小さな一歩、企業のマインドが顧客中心の会社への進めていきます。

 私は私のマネージャーたちや会社がサービスデザインのような新しい考え方を取り入れることを誇りに思います。Global Talent Acquisition組織における変革が実行中ですが、ここにサービスデザインを活用できる機会が与えられたことは本当に幸運でした。

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壁にマッピングされたポストイット

このプロジェクトから学んだこと

  1. 世界はステージでその要素は全て重要です。変化を起こす時にエンドユーザーだけでなく、それを実行する役者全てを考える必要があります。それに取り掛かるチームが「ステージ」のコンセプトを理解できるよう背景を設定しましょう。
  2. 望むエクスペリエンスからはじめ、プロセスを後から定義する。これまでやっていたことは脇において、ビジネスのフローにおいてどのようにしたいのかをデザインしましょう。まず顧客を考える。ニーズを把握してそこからはじめる。使わなければいけないシステムやルールに気を使いすぎない。あなたのモデルに組み込むことができるし、これまで考えたこともないタッチポイントが生まれるかもしれない。
  3. 将来の理想を想像しましょう。現状のマッピングも素晴らしいです。そこは間違えないで下さい。しかし、現状のマッピングでは不十分な状況があります。実際に存在しないワークフローをデザインするのは非常に難しいですが、固有の改善を推進するには必要なことです。
  4. デジタルに移行しましょう。当たり前に聞こえるでしょうが、ワークショップの環境でのエンゲージメントのために付箋紙から離れられない人たちもいます。デジタルツールを使いましょう。
  5. 大きく夢見て、小さくはじめましょう。サービスデザインによる採用プロセスの再定義は1日でなし得るものではありません。サービスデザインを使って組織文化に影響を与えたいと考えるならば、小さなシナリオで小さく興味を持っている人たちと一緒にはじめましょう。その小さな一歩が先へとつながっていきます。

解説

 顧客満足度を高めるために人間中心のデザインを取り入れる。特にサービスにおいてはサービスデザインは日本でも注目を集めてきています。

 サービスには外向きのサービス(顧客やパートナー)と内向きのサービス(従業員やパートタイム)があります。例えば人事やITというのは従業員が働きやすい環境を作るサービスです。サービスデザインが活用されるのは外向きのサービスが多く、内向きのサービスに使われることはあまりありません。これは予算のつき方が原因なのだと思います。社員満足度のために外部のデザイン会社にお金を払う予算がない。

 でも、内側で人間中心のサービスができないのに、外側に対して人間中心のサービスができるのか?という疑問はありますよね。インテルのこの事例はそういう意味ではとてもいい事例です。ボク自身もシンガポールで新入社員のオンボーディングのデザインをしたことがあります。とある政府系機関の人事の方々とデザイン室と一緒にこのプロジェクトをやったのですが、人事の方というのは社員のことを知っているようで知らない。どちらかというと人事プロセスの専門家なんですね。だから人事(じんじ)は人事(ひとごと)と言われたりする。

 顧客中心の企業文化にしたいのであれば、まずは内側からはじめてみてはいかがでしょうか? f:id:kazuya_nakamura:20180210143112p:plain

カタパルトスープレックス なかむらかずや

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プロダクト開発の優先順位のラディカルでシンプルな付け方

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原文:"A Radical, And Simple, Approach To Product Prioritization" by Richard Banfield

「すべきことを終わらせる」ための最大の課題は「何をすべきかを知る」ことなのは皮肉なことです。私たちの本の『Product Leadership』でこのトピックにまるまる一つのセクションを費やしました。最近では、この課題を確認するためにいくつかの調査を実施しました。100人以上のプロダクトプロフェッショナルを対象としたアンケート調査で、TwitterとLinkedInで投票をしましたが、結果は同じでした。プロダクト担当者の最大のチャレンジは優先順位付け。

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支付宝と微信のミニプログラムの違い

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この記事のポイント

  • 中国では支付宝(アリペイ|Alipay)と微信(ウィチャット|WeChat)がミニプログラムというAppleのAppStoreもGoogleのPlayStoreも必要なエコシステムを作った。
  • やっぱ、芝麻信用(セサミクレジット|Sesami Credit)すげえ。
  • すごいなあと思う反面、これってガラパゴスにならない?とも思う。

原文:"We’ve experimented with Alipay Mini Programs" by Thibault Genaitay

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