カタパルトスープレックス

興味がない人は無理して読まなくていいんだぜ。

ジャン=クロード・カリエールについて

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コロナ禍の間、通勤しなくなり、通勤時間の間にオーディオブックで「読書」する習慣がすっかりなくなってしまいました。移動時間がなくなり、読書時間が減りました。その代わり増えたのが映画を観る時間です。ちゃんと数えるのも面倒ですが、今年に入って既に300本以上の映画を観ました

いろいろ映画を観て、一人の脚本家の名前が頭に刻み込まれました。それがジャン=クロード・カリエールです。日本でも著書が何冊か翻訳出版されています。yomoyomoさんの『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて』はウンベルト・エーコとジャン=クロード・カリエールの共著である『もうすぐ絶滅するという紙の書物について』からとってるんですね。でも、おそらく一番有名なのは『ブリキの太鼓』(1979年)や『存在の耐えられない軽さ』(1988年)のような映画の脚本家としてでしょう。

ピエール・エテックスとの共同作業

ジャン=クロード・カリエールの脚本家としてのキャリアはピエール・エテックスと共にはじまりました。ピエール・エテックスはフランスのコメディアンで映画監督です。お互い初めての映画作りでしたが、二作目の短編『幸福な結婚記念日』(1962年)でいきなりアカデミー短編映画賞を獲得しました。ピエール・エテックス監督とジャン=クロード・カリエールの共同作業で特筆すべきは二作目の長編『ヨーヨー』(1965年)でしょう。

ピエール・エテックス監督はチャップリンやキートンのようなスラップスティックをこよなく愛し、作品スタイルとしました。当時としては時代錯誤もいいところです。そんな彼がサイレント映画とサーカスにオマージュを捧げたとても美しい作品が『ヨーヨー』です。サーカス愛といえばフェデリコ・フェリーにですが、本作は『8 1/2』から強い影響を受けたそうです。そして、フェリーニに対するオマージュもこの作品には織り込まれています。こんな美しい作品が日本で未公開なんてもったいない!(日本未発表作品を扱う本ブログの面目躍如ポイント)

ピエール・エテックスの監督作品はクライテリオン・コレクションからボックスセットが発売されています。

PIERRE ETAIX

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  • メディア: Blu-ray

ルイス・ブニュエルとの共同作業

ジャン=クロード・カリエールが映画のキャリアをはじめたのはピエール・エテックス監督との共同作業でしたが、脚本家としての確固たる地位を築いたのはルイス・ブニュエル監督との共同作業でした。

ルイス・ブニュエルはスペイン人の監督です。有名なのは『アンダルシアの犬』やサルバドール・ダリと作った『黄金時代』などシュールレアリズム作品かもしれません。しかし、本当の真価が発揮されるのはメキシコ時代でしょう。メキシコ時代に様々な作品を作っていますが、特徴として強く現れているのが不条理映画『皆殺しの天使』。

メキシコを離れヨーロッパに戻ったルイス・ブニュエルがパートナーとして選んだのが駆け出しの脚本家だったジャン=クロード・カリエールでした。ジャン=クロード・カリエールと組んだ後期のルイス・ブニュエルを一言で表せば「変態」です。澁澤龍彦が『澁澤龍彦映画論集成』でフランス時代のルイス・ブニュエルをその変態性において大絶賛しています。その代表作が『自由の幻想』だと思います。メキシコ時代もかなり変な映画を作っていたルイス・ブニュエルですが、そこに明確な「変態」が加わったのは、紛れもなくジャン=クロード・カリエールの影響でしょう。

澁澤龍彦 映画論集成 (河出文庫)

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  • 作者:澁澤龍彦
  • 発売日: 2013/02/15
  • メディア: Kindle版

ルイス・ブニュエルのフランス時代の監督作品は日本でも角川からボックスセットが発売されています。

ルイス・ブニュエル 《フランス時代》 Blu-ray BOX

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  • 発売日: 2018/07/27
  • メディア: Blu-ray

そんなジャン=クロード・カリエールの変態性が垣間見える著作が『万国奇人博覧館』と『珍説愚説辞典』でしょう。ジャン=クロード・カリエールは人間の想像力を測る尺度が三つあると言います。「驚異」と「愚行」と「奇行」です。驚異の中身が的外れで愚かなのが「愚行」で、それを集めたのが『珍説愚説辞典』です。そして、自由意志の発露が「奇行」です。ジャン=クロード・カリエールの定義によればです。彼の書いた本は本当に面白いから、機会があったら読むといいですよ。

そして、彼が書いた書籍を読めば、ルイス・ブニュエルの後期作品に垣間見れる変態性は間違いなくジャン=クロード・カリエールによってもたらされたのだと確信するのです。

珍説愚説辞典