今回紹介するのは性病(STD/STI)についての本です。以前に紹介したドラッグについてのカール・ハートの著書"Drug Use for Grown-Ups"も同じですが、性病を禁忌として目を逸らしても何もいいことがない。これが著者アイナ・パークのメッセージです。正しい知識を持つこと。それが第一歩です。
Strange Bedfellows: Adventures in the Science, History, and Surprising Secrets of STDs
- 作者:Park, Ina
- 発売日: 2021/02/02
- メディア: ハードカバー
日本は「恥の文化」だと『菊と刀』の著書ルース・ベネディクトは指摘しました。他者の感情や自己の体面を大切にする文化。つまり、自己の外側。世間体大事。一方で西洋は「罪の文化」なのだそうです。これは自己の内面に抱える罪の意識。自己の内側。
- 作者:ベネディクト
- 発売日: 2013/12/20
- メディア: Kindle版
アイナ・パークが問題とするのは性病が「罪(スティグマ)」となって、語ることすら憚れる状況です。語らなければ知識は行き渡らない。結果的に性病で不幸になる人が増えてしまう。この「罪」を軽くして人がなるべく性病についてオープンに話せるようにしたい。まあ、これは日本でも一緒ですよね。罪なのか恥なのかはあまり重要ではない。性病が話題として禁忌であるのは一緒なのですから。
性病についてオープンに語れるようになるとどんないいことがあるのか?例えば、恋人ができて性交渉をする前にお互いに検査をすることができます。しかし、性病が「罪」や「恥」だったら検査するのも躊躇してしまいますよね。「性病だったらどうしよう?」という心配が、相手に対する想いを上回ってしまう。感染源を追跡するのも「罪」や「恥」だと難しくなる。これは現在の新型コロナウィルスも同じですよね。性病(そして、新型コロナウィルス)を「罪」や「恥」にしても、いいことなんて何もない。無知が広がるだけです。
ボクも偉そうなことは言えないですけどね。この本に書いてある性病事情は全く知りませんでした。本著はHIV、淋病や梅毒のようなよく知られた性病からははじまりません。まだ治療法が確立されていない(でも、感染者が淋病より遥かに多くいる)性器ヘルペス(HSV)やヒトパピローマウイルス(HPV)からはじまります。ヘルペスなんて感染したら根治できない。だから、ちゃんと検査をして、感染を広げないように予防しないといけない。
これは性病のチャンピオンであるHIVについても同じことが言えます。HIVは曝露前予防内服(PrEP:プレップ)を使えばある程度は予防ができる病気になりました。でもアメリカでもプレップを服用することをオープンにする人は少ないのだそうです。その話題すら憚れる。なぜなら、男性同士でコンドームを使わないセックスをしますと言っているのと同じだからなのだそうです。もちろん、コンドームを使うことでHIVだけでなく、梅毒など他の性病の感染も予防することはできます。プレップを「罪」や「恥」にしたところで、何もいいことはないですよと。ちゃんとお互い定期的に検査を受け流ことが大事だし、予防をすることも大事。
本著ではHSVやHPVのようなニュースクールの性病だけでなく、後半には梅毒や淋病のようなオールドスクールの性病も取り上げています。梅毒や淋病はすでに治療法が確立されていますが、それでも感染爆発の気配を見せることがあるのだそうです。どうやってその感染爆発を防ぐのか。それはトラッキングできるようにするしかない。そのためにも性病を「罪」や「恥」にしてはいけない。Salt-N-Pepaも30年前から言ってるじゃないですか、セックスについて語ろうと。