カタパルトスープレックス

興味がない人は無理して読まなくていいんだぜ。

社会

書評|環境問題が原因で精子の数が毎年1%減少している……かも?|"Count Down" by Shanna H. Swan

環境問題に関する本が最近はたくさん出版されています。その中でもかなりユニークなアングルで切り込んできたのが今回紹介するシャナ・H・スワン著"Count Down"です。単にユニークなだけでなく、科学的なベースをしっかりした上で、センセーショナリズムに陥…

書評|セックス(と性病)について語ろう|"Strange Bedfellows" by Ina Park

今回紹介するのは性病(STD/STI)についての本です。以前に紹介したドラッグについてのカール・ハートの著書"Drug Use for Grown-Ups"も同じですが、性病を禁忌として目を逸らしても何もいいことがない。これが著者アイナ・パークのメッセージです。正しい…

映画評|『インターステラー』のインスピレーション元のドキュメンタリー|"The Dust Bowl" by Ken Burns

ジェームズ・キャメロン監督が六人の映画監督にインタビューした『SF映画術』という素晴らしい本があります。その六人のうちの一人が今を輝くクリストファー・ノーラン監督でした。ボクはクリストファー・ノーラン監督作品が大好きで、おそらく全ての作品を…

書評|「仕事とは何か」をビッグヒストリー的なアプローチで解き明かす|"Work" by James Suzman

生産性は技術革新のおかげでかなり上がりました。しかし、それでも私たちは仕事をしています。生産性が上がって、仕事が減るどころか増えています。 ケインズは「生産性が上がり、2030年には労働時間は週15時間になる。21世紀最大の課題は余暇になるだろう」…

書評|孤独と新自由主義の関係性|"The Lonely Century" by Noreena Hertz

日本でも老人の孤独死が問題になっていますが、「孤独」は世界的にも問題なようです。イギリスでは孤独担当大臣が設立されたほど。孤独って主観的な感情の気がするのですがUCLA孤独感尺度が指標として使われることが多いそうです。日本でもUCLA孤独感尺度は…

書評|大人のためのドラッグ講座|"Drug Use for Grown-Ups" by Carl L. Hart

読者の常識に挑戦する本は知的な刺激を与える本です。考えが及ばなかった部分に光が当たる感覚。しかし、それは「挑戦」なので、拒否反応もあります。理屈はわかるが、信じたくない。受け入れられない。日本語でも著書が翻訳されているカール・ハートの新著"…

書評|新自由主義が生んだ独占企業群がみんなから自由と機会を奪っている|"Monopolies Suck" by Sally Hubbard

ティム・ウーは著書"The Curse of Bigness"(2018年)で独禁法に焦点を当てて、現代が独禁法以前の「金ピカ時代(Gilded Age)」に戻りつつあると警笛を鳴らしました。そして2020年にようやく司法省が重い腰を上げてGAFAの独禁法違反について動きを見せはじ…

書籍|能力主義と自己責任は正しいのか?|"The Tyranny of Merit" by Michael J. Sandel

2020年のアメリカ大統領選挙で負けたものの、なぜドナルド・トランプはこれほど多くの人を惹きつけるのか?なぜイギリス人はEU離脱を支持するのか?ポピュリズムと一言で言うけれど、なぜポピュリズムがここまで台頭してきたのか?ローレンス・レッシグが主…

書評|人間と機械の利害は合致できるのか|"The Alignment Problem" by Brian Christian

グーグルで人工知能(AI)の倫理を研究していたティムニット・ゲブルが解雇されたニュースは2020年の終わりのニュースとしてはかなり衝撃的に受け止められました。なぜか。職場における差別の要素もあるのですが、AI倫理の重要性がかなり大きくなってきてい…

書評|世界の終わりの現在|"Notes from an Apocalypse" by Mark O'Connell

「世界の終わり」は魅力的なトピックで、遥か昔からずっと語られてきました。世界の終わりはもうすぐだ!と。マーク・オコネルも「世界の終わり」に取り憑かれた一人で、その研究成果をまとめたのが本書"Note from an Apocalypse"です。専門書と言うよりはエ…

書評|人間の「仕事」消滅後の世界|"A World Without Work" by Daniel Susskind

人工知能によって人は仕事が奪われる!この手の話はすでにクリシェですよね。今さら真面目に語ってどうするの?今回紹介する"A World Without Work"はまさに語り尽くされた感のあるこのネタを改めて大真面目に検証する本です。 本書を書いたダニエル・サスキ…

書評|アナーキストから見た民主主義|"There Never Was a West" by David Graeber

デヴィッド・グレーバーが59歳の若さでお亡くなりになりました。最近だと『ブルシット・ジョブ――クソどうでもいい仕事の理論』が日本でも翻訳されて紹介されたばかりでした。本来でしたらこのブログでは日本未発表/未翻訳の作品しか取り上げないのですが、…

書評|文化人類学から見た通貨と負債の歴史は経済学とはだいぶ異なる|"Debt" by David Graeber

デヴィッド・グレーバーが59歳の若さでお亡くなりになりました。最近だと『ブルシット・ジョブ――クソどうでもいい仕事の理論』が日本でも翻訳されて紹介されたばかりでした。本来でしたらこのブログでは日本未発表/未翻訳の作品しか取り上げないのですが、…

書評|データサイエンス時代のソフィストたちに騙されない方法|"Calling Bullshit" by Carl Bergstrom and Jevin West

英語でブルシット(Bullshit)は「バカらしい戯言」です。ウソ(Lie)とも言い切れない。嘘の場合もあれば、本当の場合もある。ブルシットは多くの場合はハッタリだったり、ごまかしたり、騙そうとする意図があります。ブルシットだとわかれば、トランプのゲ…

書評|60年前のケンブリッジ・アナリティカはダメなスタートアップの典型だった?|"If Then" by Jill Lepore

フェイスブックなどから個人情報を集め、データ分析をして、投票行動に影響を与えるキャンペーンを行ったケンブリッジ・アナリティカは多くの人にとって民主主義への脅威に映りました。しかし、ケンブリッジ・アナリティカのような会社は最初ではありません…

書評|ピケティの考える富の不平等と政治|"Capital and Ideology" by Thomas Piketty

今年に入って登場したトマ・ピケティの新著"Capital and Ideology"は前著『21世紀の資本』をさらに発展させ、経済不均衡と政治の関係を歴史的に紐解いています。ページ数も"Capital and Ideology"は1,150ページと相変わらずのレンガ本。『20世紀の資本』の69…

書評|テクノロジーが触れてはいけない領域はあるのか?|"Sex Robots and Vegan Meat" by Jenny Kleeman

「ソフトウェアが世界を飲み込む」と宣言したのはマーク・アンドリーセンでした。2011年のウォールストリート・ジャーナル寄稿記事でマーク・アンドリーセンが指摘してことはほぼ現実になりました。しかし、まだまだテクノロジーが触れていない領域がありま…

書評|ポール・クルーグマンから保守ゾンビへの宣戦布告|"Arguing with Zombies" by Paul Krugman

政治的な意味において保守(小さな政府)に対する考え方はリベラル(大きな政府)です。そして、経済的な意味においてリバタリアン(完全自由主義)に対する考え方がプログレッシブ(革新主義)です。政治的な考えは経済的な考えに結び付きます。逆に経済的…

書評|新自由主義批判に対する保守からの回答―大きな政府は大きな腐敗を生む?|"Profiles in Corruption" by Peter Schweizer

ピーター・シュワイザーは調査報道記者です。そして、ルネッサンス・テクノロジーズのロバート・マーサーらとともに保守系シンクタンクの政府説明責任研究所を設立した一人です。更に、オルタナ右翼を代表するメディア『ブライトバート・ニュース・ネットワ…

書評|人間と動物の優しい共存のための豆知識|"Animalkind" by Ingrid Newkirk

今回はどうやって紹介したらいいのか、なかなか迷った本です。単純に「動物好きにおすすめの本!」とも言えるし、もっと社会的に「ヴィーガンや動物愛護を理解するための本!」とも言える。更に「文明発展の中における動物の位置づけ!」みたいに大きな括り…

書評|もう、はじまっている新しい戦争|"Sandworm" by Andy Greenberg

戦争のイメージって飛行機や戦車が実弾を撃ったり、ミサイルが飛んで街を破壊したり人を殺したりですよね。もちろん、そういう戦争が起きる可能性はゼロではないですし、物理的な破壊兵器は今でも作られ続けています。物理的な攻撃の主なターゲットは相手の…

書評|死にゆく民主主義のための処方箋|"They Don't Represent Us" by Lawrence Lessig

何かを議論するとき、何を原理原則とするかが重要です。何が目的で、何が手段なのか。例えば、日本は衆議院と参議院の二院制をとっています。何を目的として衆議院と参議院が分かれているのでしょうか。衆議院は何を代表して、参議院は何を代表しているので…

書評|経済学が信用されない理由とそれでも信用すべき理由|"Good Economics for Hard Time" by Abhijit V. Banerjee

経済学が苦手なのは経済予測です。これは皮肉でもなんでもなく、経済学は未来を予測する学問ではないのです。当然ながら経済学者の経済予測は外れるので、一般の人たちから信頼されなくなる。経済学の得意分野は経済予測という誤解は経済学者にとっても不幸…

書評|キックスターター創業者の考える新自由主義の罠と日本的経営哲学|"This Could Be Our Future" by Yancey Strickler

成功したスタートアップ創業者には海外でも日本でも新自由主義の権化のような人が多いですよね。勝ち組なので、勝ち組の理屈を信じるのは理解できます。一方で、成功したにも関わらず、全く違う価値観を持つ成功したスタートアップ創業者もいます。代表的な…

書評|クソ野郎、キチガイ、変態と戦う法律事務所|"Nobody's Victim" by Carrie Goldberg

イブラム・X・ケンディの人種主義に関する本"How to Be an Antiracist"を読みながら、レイシズムが人種主義で、レイシャル・ディスクリミネーションが人種差別ならば、セクシズムが性別主義で、セックス(ジェンダー)・ディスクリミネーションは性別差別と…

書評|人種の違いを「お笑い」にしないための反人種主義(アンチレイシズム)|"How to Be an Antiracist" by Ibram X. Kendi

人種主義(レイシズム)って日本人にとっては馴染みが薄いと思うんですが、国連では日本はしっかりと人種主義的な国と認識されてしまっています。2005年の国連人権委員会特別報告で「日本社会に人種差別および外国人嫌悪が存在することを正式にかつ公的に認…