カタパルトスープレックス

興味がない人は無理して読まなくていいんだぜ。

書評|人間の自然への関与はどこまで許されるのか?|"Under a White Sky" by Elizabeth Kolbert

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今年に入って環境問題についての新著が増えています。いちばんの話題作はビル・ゲイツによる"How to Avoid a Climate Disaster"でしょう。この本もそのうち読んでみたいと思います。今回紹介するのはこのビル・ゲイツの環境問題本とほぼ同時期に出版されたエリザベス・コルバート(日本でも翻訳されている『6度目の大絶滅』の著者)の環境問題本"Under a White Sky"です。

Under a White Sky: The Nature of the Future (English Edition)

Under a White Sky: The Nature of the Future (English Edition)

6度目の大絶滅

6度目の大絶滅

"Under a White Sky"は前著の『6度目の大絶滅』に引き続き、環境問題の中でも、人間が自然を人工的に変えるプロジェクトに焦点を絞っています。三部構成となっていて、第一部が河川、第二部が陸と海、第三部が空となっています。ちなみに、タイトルの"Under a White Sky"は第三部の空に関係してきます。

人類はすでに半分以上の氷に覆われていない表面(河川/陸地/海)を直接的に手を加えて変質させていて、氷で奪われていない表面はほぼ全て直接的に手を加えて変質させてしまっているそうです。現代は人間が自然に重大な影響を与える地質時代「人新世(じんしんせい:アントロポシーン)」です。しかし、自然に手を加えれば、その反動もある。その反動の一つが環境問題です。

少し前に紹介したクリストファー・ノーラン監督作品『インターステラー』(2014年)のインスピレーション元の一つであるケン・バーンズ監督のドキュメンタリー作品『ダストボウル(The Dust Bowl)』も人類が自然に手を加えた結果、環境問題が引き起こされた代表例を描いていますよね。

第一部の「河川」ではシカゴ運河での外来種の爆発的な増殖と、ミシシッピ川の洪水についてです。人類の行動パターンは……

  1. 人類の利益のために自然を人工的にコントロールしようとする
  2. 一つの問題は解決されるが、別のさらに大きな問題が発生する
  3. さらに大きな問題を解決するため、さらに自然を人工的にコントロールしようとする

 ……と基本的に自らの利益のために、自らの行動を変化させずに、自然をコントロールしようとします。それが環境問題がここまで大きくなってしまった要因です。

第二部は陸地と海ですが、主に絶滅危惧種について解説されています。環境問題があまりにも大きくなり、人類のコントロールがすでにできない状態になりつつあります。そうすると、人類はさらに自然をコントロールしようと考えます。救えないのであれば、養殖して保存しよう。遺伝子操作で環境に強くしよう。グレートバリアリーフは年々小さくなっています。しかし、遺伝子操作や養殖で救えそうにありません。

しかし、この本でいちばん面白かったのは第三部の空です。地球温暖化について扱っています。地球温暖化についても不可避になりつつある認識が多くの科学者の間で広がっているそうです。もう、地球は温暖化してしまう。じゃあ、どうするか。冷やせばいい。そこで登場するのが地球工学(ジオ・エンジニアリング)です。例えば、炭酸カルシウムを空に散布し続ける。そうすると、空は白くなるそうです。青空ではなく白空になる。これが本作のタイトル"Under a White Sky"です。

ボクもあまり環境問題には詳しくないですが、本著はとても面白かったです。