中国のネットイース(NetEase|网易)といえばゲーム会社のイメージが強いかもしれません。陰陽師、Rules of Survivalや荒野行動が人気ですね。実際に中国のゲーム売上ではテンセント(Tencent|腾讯)に次いで第二位、世界のモバイルゲームパブリッシャーとしてもテンセントについで第二位です。っていうか、テンセント強すぎですね。PUBG Mobileも調子いいですし。
ネットイースは中国のプラットフォーマーである(BAT|バイドゥ、アリババ、テンセント)には及ばないですし、それを追いかける若いユニコーンたち(メイトゥアンやトウティアオ、JD.comなど)と比べると目立った存在ではないかもしれません。
テンセントがゲームを収益の柱としつつ、ペイメントやソーシャルに事業ポートフォリオを伸ばしているのと同様に、ネットイースも音楽やコマースといったゲーム以外の事業ポートフォリオで成功を収めつつあります。ユニークなのはその事業の方向性です。
ネットイースの特徴
中国のBATはそれぞれに事業の特徴があり、長期的なビジョンやそこへ進む道も明確です。ネットイースは他の中国企業と比べて表面的には一貫性がありません。養豚事業のウェイヤン(网易味央)とか象徴的ですよね。なんでゲーム会社が養豚?
でも、これら表面的には一貫性のない多角化がうまくいっているのが面白いところです。音楽ストリーミング(网易云音乐)も越境コマースのカオラ(考拉)も順調です。
ネットイースの主要事業(2017年度のAnnual Reportより)
- ゲーム:言わずもがなのネットイース の主力事業で67%の売り上げを占めるます。2015年度には76%だったので、相対的に他の事業(Eコマース)が順調に伸びていることがわかります。
- Eコマース:ネットイースの2本目の柱となることが期待されている事業。越境コマースのカオラ(考拉)とプライベートブランドを展開するB2Cコマースのヤンシュアン(严选)が軸。2015年度は5.1%でしたが、2017年度は21.6%にまで成長しています。
- インターネットメディア:元々のメイン事業だったポータルサイト(www.163.com)を中心としたコンテンツとコミュニケーションのビジネス。広告収入がメイン。2017年度の売り上げは全体の4.5%なのであまり大きくないですね。
- その他、Eメールなど:ネットイースは中国の無料eメールの先駆けで、ボクの中国人の友人はほぼ163のメールアドレスを持っていました。その他、音楽ストリーミング(网易云音乐)やチャットのようなインキュベーション的な事業は全て一括りにされています。養豚事業も恐らくこの分類かと。こちらも6.9%とまだ大きくありません。
網易(ネットイース)、第2四半期営業収入は約2730億円:ゲーム復調、純利益減少に歯止め | 36Kr Japan
ネットイース創業前
ネットイースの創業者はウィリアム・ディン(丁磊)です。ネットイース創業前のウィリアムのキャリアは順風満帆とはいえませんでした。大学卒業後に上海市近くのニンボー市(宁波)の電信局に1993年に就職しますが、しばらくして退職します。そして広州に移りデータベース企業のSybaseで働きはじめますが、これも一年しか続きませんでした。さらに、広州のISPに転職してFirebird BBSを使ったフォーラムを立ち上げますが、この会社もすぐに辞めてしまいます。
ネットイース創業と163の意味
大学を卒業してからどこも長く続きませんでした。そこでウィリアムは起業することにします。何かアイデアがあったわけではなく、ソフトウェアを作ってシステム開発すればいいだろうと考えていたそうです。50万人民元(いまの日本円で800万円くらい)の資本金の一部は自己資金で、あとは友達に借りたそうです。とにかく自分のやりたいことをやりたかった。これがネットイースの原点なんですね。1997年のことでした。大学を卒業して4年ですね。テンセント(1998年)やアリババ、バイドゥ(1999年)より早かったんですね。
中国ではドメイン名に数字が使われることが多いです。例えば中国電信の場合は10086.cnですが、これは中国電信のカスタマーサービスの電話番号が由来です。ネットイースの場合は163.comですが、これはインターネットに接続するときにダイアルアップ接続していた頃の名残です。中国ではインターネットに接続するときにダイアルする番号が163でした。
ネットイースの初期のビジネスはポータルと無料電子メールによる広告モデルでした。
IPOと業績不振とゲームビジネス参入
ネットイースは2000年6月にNASDAQに一株$15.50で上場します。創業からたった三年です。すごいですね。しかし、ポータル事業を中心とした広告収入は伸び悩んでいました。その上で経営陣の不正の疑いや香港の企業の買収取りやめなどが重なり、株価が急落します。最低の時は$0.64で、価値は120億ドルから3億ドルまで下がりました。このために一時的にNASDAQでの取引を停止します。ウィリアムは30歳でした。すごいジェットコースターですね。
そこでウィリアムスが決断したのがゲーム業界への参入でした。ポータルからのトラフィックをゲームにつなげるという理屈はわからないでもないですが、Webの開発とゲームの開発は全然違うので、すごいピボットだなと思います。
そしてリリースしたのが『夢幻西遊』というWindowsプラットフォーム向けのMMORPGで、これが大ヒットします。ゲーム会社としてのネットイースの原点がここです。このピボットが成功してネットイースの株価は再び上昇します。なんとなく日本人のボクたちにはミクシーを想起させますね。
ウィリアム・ディンのやりたいこと
スタートアップは創業者のビジョンを具現化したものです。ウィリアム・ディンの場合は「自分のやりたいことをやりたい」が初期衝動でした。ビジョンというよりは初期衝動がネットイース を突き動かしているんじゃないかという気がします。
ネットイースは創業がアリババやテンセントより早いにもかかわらず、バイドゥーの半分の資産価値なのはマーケットに動かされているというより、「自分のやりたいことをやりたい」が優先しているからなのではないかなと。ウィリアム・ディンはテンセントのポニー・マーやアレン・ジャンに輪をかけてメディアシャイでなかなか公の場に現れないので想像でしかないですが。
BATにネットイースが加わってBANT(Baidu/Alibaba/NetEase/Tencent)になれればいいけど、それがゴールじゃない。そうじゃなければ養豚ビジネスに参入なんてしないでしょう。ボクはそんなネットイース が嫌いじゃないです。
参考文献
Tencent unseats NetEase in battle for global mobile app leadership | South China Morning Post
Sky Is Limit For NetEase's Pig Farm Business
Chinese Number Websites: The Secret Meaning of URLs | The New Republic
Lost 3 billion to earn 110 billion, 32 year old became the richest man Chinese - china news