前回の暗号化通貨のロマンであるDeFi(ディファイ)を理解する「なんでディファイ?」からちょっと時間が経ってしまいました。立て続けに本を読んでしまったのが原因です。読んですぐに書評を書かないと忘れちゃうので、先に書評を書いてしまいました。
暗号化通貨やブロックチェーン界隈で話題の分散化された金融システム、通称DeFi(ディファイ)ですが、前回は「なんでディファイ?」というWhyの部分をボクなりの解釈で解説しました。今回は具体的にデファイってなんなの?というWhatの部分をボクなりの解釈で解説します。
暗号化通貨の課題
ブロックチェーンの特徴は以下になります(ボクの個人的な理解です)。簡単に言ってしまえば、現在の暗号化通貨の課題はブロックチェーンが備えるこれらの特徴を全て享受できていないことです。
- 弾力性があり、しなやかなシステム(Resilient)
- 透明性がある(Transparent)
- 解析しにくい耐タンパー性がある(Tamper Resistant)
- 改ざん不可能(Non-reputable)
- 仮名性がある(Pseudonymity:匿名性とは違うので区別が必要)
全てが分散化されておらず、中央集権的な部分が残ってしまっている。これら中央集権的な部分が不正の温床となり、脆弱性にも繋がっています。これらの中央集権的な部分を全て分散化する取り組みがディファイです。簡単に言ってしまえば。
しかし、全ての課題をディファイで解決できるわけではありません。例えば、広く一般に普及するためにはスケーラビリティの課題を解決する必要がありますが、これは根本的な課題なのでディファイというアプリケーションレベルでは解決できません。根本的な課題はビットコインやイーサリアムなど基本的な部分で解決する必要があります。
ディファイのビルディングブロック
ブロックチェーンを活用した分散化した金融システムがディファイです。以下のアプリケーションが代表的です。
- 分散化されたステーブルコイン
- 分散化された取引所(DEX)
- 分散化された貸し出し(レンディング)
通貨、取引所、銀行。これくらいあれば金融業の基本的なことはできるでしょう。ディファイと定義されるアプリケーションは実際にはもっとたくさんありますが、まずはこれだけ覚えておけば十分でしょう。他に注目すべきはSet Protocolのようなトークンバスケット(金融商品であるトークンを複数組み合わせる)や本人証明であるKYC(例:uPort、BloomやWyre)ですかね。
そして、ディファイも分散化アプリ(Dapps)の一つなので、大前提としてトークン(WETH、BAT、ZRX、DAIやREPなどERC20トークン)とウォレット(Coinbase Wallet、Ledger、MetaMaskなど)の利用があります。まず、分散化アプリのプラットフォームがあり、そのアプリケーションの一つとしてディファイがあると理解してください。
分散化されたステーブルコイン
中央集権的なステーブルコイン(テザー)
暗号化通貨を広く一般に使ってもらう上で課題の一つが価格の分かりづらさと不安定な相場です。ボクたちは普段は日本円を使ってますよね?買い物をするとき、いくらだったら安いのか、高いのか相場感って日本円で考えます。今月だったらいくらまで使えるのか、日本円で考えます。日本円で100円ってビットコインでいくらなのかわかります?普通わかんなんですよね。しかも、変動が激しいからその日によって価値が違う。これだとなかなか普段使いには厳しいです。普段に米ドルを使わないのと同じか、それ以上のハードルがあります。暗号化通貨への投資は米ドル建の貯蓄よりハードルが高い。
この問題を解決するのが普段使っている通貨(法定通貨)と連動(ペグ)されたステーブルコインです。有名なのは2015年から運営しているテザーですね。米ドルと連動したUSDTや欧ユーロと連動したEURTや、中国元と連動したCHNTがあります。日本円にペグされた暗号化通貨だとLCNEMが発行済みで、GMOが独自の日本円とペグされた暗号化通貨の発行を検討しています。ただ、USDTと比べるとまだまだですね。
分散化されたステーブルコイン(DAI)
法定通貨とペグされたテザーのような暗号化通貨は、普段使いの一歩となりえます。しかし、課題もあります。テザーはテザー社が中央管理しています。銀行間取引で使われる暗号化通貨リップルと同様で、借用取引(IOU取引)になります。つまり、テザーの米ドルとの連動を担保するためにテザー社は1:1の割合で米ドルを保管します。これが米ドルとの連動を担保しています……とテザー社は言ってます。でも、本当に米ドルを保管してるの?
さらに、テザー社の経営陣はビットフィネックスという暗号化通貨の取引所を経営しています。通貨の発行元であるテザー社と取引所のビットフィネックスが市場操作をしているのではないかという嫌疑がかけられています。ブロックチェーンの暗号化通貨のウリは透明性なのですが、テザーもビットフィネックスもブラックボックスになっているんですね。この問題を解決するのが分散化ステーブルコインです。
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テザーは法定通貨担保型のステーブルコインです。法定通貨を担保しているのはテザー社。テザーのような中央集権的なステーブルコインに代わって、ディファイのステーブルコインで最も期待されているのがDAIです。DAIは仮想通貨担保型のステーブルコインです。EHTを担保に利用した担保付き責務(CDP:Collateralized Debt Position)というスマートコントラクトで実現しています。簡単に言えばEHTを担保にDAIを発行します。 150%以上の担保が必要なので、$150のETHで、$100のDAIまで発行できます。EHTは価格変動するので、ペナルティを避けるためには150%の担保率を維持する必要があります。なんか、面倒ですね。
ドルペグといえば、アジア通貨危機を思い出してしまいます。投資家のおもちゃにならないような仕組みも必要ですね。
分散化された取引所
ビットコインが盗まれたマウントゴックス事件やNEMが盗まれたコインチェック事件。暗号化通貨を買ったり売ったりするのに取引所は非常に便利なのですが、ハッキングの対象となり盗難事件が後を絶ちません。ブロックチェーンって改ざん不可能で、ハッキングが難しいんじゃなかったっけ?ブロックチェーンはそうなんですが、取引所は中央集権的に管理されているのでブロックチェーン取引の脆弱性にもなっています。
具体的には秘密鍵の管理を取引所に委任する必要があります。秘密鍵を持っているので、取引所の中の人が不正に資金を引き出してしまうリスクや、外部からハッキングされて資金が流出してしまうリスクがあります。
そこで生まれたのが中央で管理しない分散化した取引所です。一般的には分散化取引所(DEX:Distributed Exchange)と呼ばれています。
分散化取引所(DEX)には三つのアプローチがあります。
- Bancorのように複数のコインと価格設定アルゴリズムを持つスマートトークンを発行する方法
- KyberNetworkのようにプールした流動資産をスマートコントラクトで管理する方法
- 0xのように分散化アプリケーションのためのオープンプロトコルとして流動資産の取引を可能にする方法
それぞれ、一長一短で現時点ではまだ中央集権的な暗号化通貨の取引所に取って代わるまでには至っていません。
分散化された貸し出し
以前に中国フィンテックの解説をした時に説明したように、銀行の儲けは手数料と運用の二つがあります。手数料はお金を集めるためにやってますが、あまり儲かりません。儲かるのは運用です。お金を預かって、その預かったお金を運用して儲けます。その運用の一つが貸し出しで、金利によって儲けます。銀行にとってコアビジネスですね。
この貸し出しもディファイのターゲットとなっています。簡単にいえば、暗号化通貨を貸して、その利益を得られることができるサービスです。
ブロックチェーンを使った分散化貸し出しサービスで最も有名なのがCompoundです。ブロックチェーンといえばP2Pのイメージがあるので、個人対個人の貸し借りができるプラットフォームだと思いますよね?違うんです。Compoundは“liquidity pool”です。流動化した資産をプールしている場所です。既存の金融で近いのがマネー・マーケットです。暗号化通貨の貸し借りの取引ができる市場ですね。既存のマネー・マーケットでは金融機関同士や一般事業者が取引に使うもので、個人には縁がありません。しかし、Compoundの場合は個人でできてしまいます。
Compoundで取引される暗号化通貨はERC20トークンです。ERC20はイーサリアムのプラットフォーム上でのみで使用されることを目的に設計されたトークンです。Compoundで現在取り扱いができるERC20トークンはWETH、BAT、ZRX、DAIやREPなどです。取引できるトークンの一覧はこちらで確認できます。非常に分かりづらいのですが、イーサリアム自体はCompoundでは取引できません。なぜなら、イーサリアム(ETH)はERC20ではないからです。イーサリアム(ETH)をトークン化したのがWEHTです。ラップ(Wrap)されたイーサリアム(EHT)だからWEHT。ラップされたビットコインはWBTC。ここまでが基礎知識。オーケー?ついてきている?
CompoundでERC20トークンを取引をするために使うのはウォレットとスマート・コントラクトです。ERC20を扱えるウォレットにはCoinbase Wallet、LedgerとMetaMaskがあります。このような対応ウォレットからトークンをCompound市場に預けます。Compoundの市場へ預けた残高はcTokenとしてトークン化されます。そして、預け入れや貸し出しなどはCompound Money Marketのスマート・コントラクト(White Paper - PDFへリンク)が使われます。
Compoundについてもっと知りたい人はMediumにあるCompoundのオフィシャルブログのFAQを参考にするといいでしょう。
で、あらためてディファイって必要?
こうやって何がディファイかだけ解説してみると、いい感じがしません?これまで課題だったことが解決されて、進歩的な感じがする。とてもプログレッシブ。
分散化アプリ(Dapps)はたくさんあるので、ディファイで扱うトークンも使い道はあります。ゲームだとマイクリプトヒーローズやクリプトキティとか人気があるらしいです。イーサランス(Ethlance)のようなクラウドソーシングでイーサリアムを稼ぐこともできます。ディファイ(DeFi)自体も分散化アプリ(Dapps)のアプリケーションです。トークンで成立する分散化経済圏は法定通貨で成立する実体経済圏の小さなパラレルワールドといった感じです。
そこでもう一度、「なんでディファイ?」を振り返ってみましょう。日本だったら日本円でそれほど困ってないですよね?アメリカに旅行したって米ドルでそれほど困りません。たくさんの技術的な課題を解決しても、暗号化通貨が法定通貨の利便性を日常の利用シーンで上回ることはまだまだできそうにありません。ディファイのユースケースはまだまだ限られています。出稼ぎの人たちがマイナーな自国の法定通貨の代わりに暗号化通貨を使って海外送金とか、余裕のある富裕層の資産運用のポートフォリオの一部に組み込むくらいかなあ。
まあ、ジンバブエやベネズエラのように自国の法定通貨に不安がある国に住んでいたらハイパーインフレ対策にはなりそうです。米ドル、欧ユーロ、人民元、日本円、英ポンド以外のマイナー通貨はディファイになってしまえ!と思わなくもない。貧しい国に住む人たちがイーサランスで暗号化通貨を稼いで、暗号化通貨で暮らすなんてちょっと夢がありますよね。ハイパーインフレ来たって小島よしおのように「そんなの関係ねえ!」って、やっぱり、ロマンですよ。実際にベネズエラでは一部の人がハイパーインフレ対策でビットコインを使ってるようですし。
Hyperinflation Produces Surge In Bitcoin Trading In Venezuela
まあ、未来を選べるのであれば、スーパー中央集権っぽいフェイスブックのリブラ(Libra)よりは、分散化されたディファイに身をゆだねたくなる気持ちはわからなくもない。