カタパルトスープレックス

興味がない人は無理して読まなくていいんだぜ。

2019年洋書ベスト5冊|ベスト・オブ・2019

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2018年のベスト5冊を振り返ると「シリコンバレー的な生き急ぐようなスタイルではなく、もっと人間らしくやろうぜ」というメッセージの本が多かったです。あと、ジェンダーに関してもエミリー・チャンの"Brotopia"のように、より深い議論が起きましたね。そして、2019年の上半期はそんな空気感をさらに推し進めた決定版のような本が続々と出版されました。

"The Age of Surveillance Capitalism" by Shoshana Zuboff

シリコンバレー的な新自由主義に対する批判の決定版は間違いなくショシャナ・ズボフの"The Age of Surveillance Capitalism"でした。ローレンス・レッシグも指摘していますが、シリコンバレーがユーザーから取得して分析、再利用することが全て悪いわけではないとボクも思います。しかし、そういった指摘もショシャナ・ズボフの全体を俯瞰して地ならしをするような丁寧な仕事があってできることでもありました。

"Nobody's Victim" by Carrie Goldberg

ジェンダーという観点でいえばキャリー・ゴールドバーグの"Nobody's Victim"も外せません。上半期のベスト3にも挙げた脳科学の観点から女性らしい脳の神話を切り崩したジーナ・リッポンの"The Gendered Brain"も素晴らしいのですが、キャリー・ゴールドバーグの場合は女性迫害のリアルな現場の話なので迫力があります。いやー、こりゃひどいわ。ブロトピアの性別差別主義者が小悪党に見えてきます。

"This Could Be Our Future" by Yancey Strickler

昨年はブートキャンプの共同創業者二人が書いた"It Doesn’t Have to Be Crazy at Work"を年間のベスト5冊の一つに選びました。今年もスタートアップ創業者が書いた本を一冊選ぶことになりました。キックスターターの共同創業者ヤンシー・ストリックラーの"This Could Be Our Future"です。しかし、この本の主題はキックスターターでも仕事の話でもありません。マリアナ・マッツカートが"Value of Everything"で定義した価値をさらに推し進めてアナンド・ギリダラダスがWinners Take All"で問題提起した資本主義の限界に応えるような意欲的な仕事でした。

"Blowout" by Rachel Maddow

ボクが今年になって新しく学んだ分野が石油とロシアです。現代の保守主義のアイコンであるコーク兄弟を追った"Kochland"もそうですし、ロシア政府のハッカー集団であるサンドウォームを追った"Sandworm"もそうです。そして、石油とロシアをいっぺんに学べる一粒で二度美味しかったのがレイチェル・マドウの"Blowout"でした。レイチェル・マドウはアメリカでも代表的なリベラルのスポークスパーソンなので、若干そっち側にバイアスがかかっているかもしれません。しかし、憶測などは交えずにファクトベースで語っているので、あとは読み手の判断次第でしょう。

"They Don't Represent Us" by Lawrence Lessig

今年のローレンス・レッシグは二冊も本を出して、とても精力的でしたね。今年一冊目のAmerica, Compromised"は腐敗を本来の意図と外れた依存関係と定義して政治だけでなく、様々な分野における「腐敗」を解説しました。今年後半に出した二冊目"They Don't Represent Us"は政治に焦点を置き、デモクラシー・クーポン(Democracy Coupon)や審議による意見投票(Deliberative Opinion Poll )のような具体的な解決策を提案したところが特筆に値します。そう、資本主義だけでなく、民主主義も危機に瀕していると言われたのが今年の特徴だったかもしれませんね。

昨年あげた五冊のうち、日本語に翻訳されたのは『FACTFULNESS (ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』だけだったのですが、2020年にはどれくらいの素晴らしい書籍が日本にも紹介されるでしょうか。

書評|チンパンジーより世界を正しく認識する方法|"Factfulness" by Hans Rosling - カタパルトスープレックス